アンナチュラル、MIU404と世界線が共通するシェアードユニバースムービー「ラストマイル」を見ました。
※この記事は映画の内容について主に物流面について触れています。
一切のネタバレが嫌な方はお気をつけください。
見る前、アンナチュラルやMIU404のみんなのその後が描かれる、見れるー!嬉しい!の気持ちと同時に、野木亜紀子が描く「物流」の映画…何を突きつけられるのだろう、怖い、と思っていました。
わたしは仕事で小規模ながら通信販売の業務に関わっています。
物流の一端に関わる者です。
いま、「物流の2024年問題」は通販業界ではかなりの頻出ワード。
物流業界では配達の末端(営業所から各家庭に個別に届けるところ)を担う部分は「ラストワンマイル」と呼ばれているのですが、そのラストワンマイルのドライバーが時間外労働の上限規制(いわゆる働き方改革)のため圧倒的に不足するのが2024年(今まで時間外労働しまくってなんとかなっていたらしい)。その他にも長時間労働、勤務から勤務までの間充分休めていない問題、再配達問題などなど物流に関する様々な問題があり、それをどうするかという論点を含んでいるのが2024年問題です。*1
野木さんの執筆時(2021年くらい?)は2024年問題の「に」の字もなかったそうなので、本質を描くとタイミングによって現実と恐ろしくフィットすることもあるもんだと、アンナチュラルやMIU404の頃の時代へのフィット感に引き続き震えますね。
さて、映画序盤は倉庫の派遣スタッフの数や倉庫の大きさ、仕組みについてAmazonの社会科見学のように見ました。
へえー、こんな感じになってるんだー、すげえーと他人事のように。
そして佐野運送の単価の安さに驚き、納得もして…。
でも映画で一番感情移入してしまったのは羊急便の八木さん。(現実ではわたしの中ではヤマト運輸さん!)
会社に毎日集荷が来ているし、運送会社との送料の交渉や住所不備や遅配の際・破損があった時のやり取り等もしたり、運送会社さんにはかなり密接にお世話になっています。
映画で描かれる羊さんの苦労が、ほんとわかる。大変。営業所間の連絡がFAXなのも知ってる。
指定時間に不在な時の無念さ、住所不備などトラブルがあっても届けるために必死なのも知ってる。
正直初見は「うちとの契約切りますよ」とチラつかせて脅すエレナの態度にかなりイラついたし、Ama…じゃなかった、デリファスの横暴さに、だいぶ羊さん以降の物流関係登場人物の皆様に肩入れしてしまいました。
ドライバーさんが爆発に巻き込まれたり怪我がなくてよかった。
そうして配送業者へ同情する一方、通販モールは翌日配送を押し付けてくるし、送料無料にしろというモール側からの指導もある。
送料分を多少上乗せしてでも送料無料の表記の商品の方が実際売れるし、客もそれを求めているのです。
別に急いでないよと思ってそうじゃない選択をするとしても、その分安くして欲しいというのはたぶん消費者は思っているし、でも送料はこれ以上安くはならないし、今の通販システムでは最短以外をなかなか選択できません。
色んな方向から、物流は硬直していて、2024年問題もあっていつ崩れるか、という局面になっていると思います。
そんな背景があるから、ラストマイルで描かれた問題について、他の人よりもさらに目の前に突きつけられました。
今、物流が発送元も配送業者も委託業者もみんなパンクしそうになりながらギリギリで回しているのを、全部知っている。苦しい。
どうしろっていうのか。
映画のようにせーので降りられたらどんなにいいかわからない。
今わたしはこの先の配送問題について「何もしなかった」と言われる存在に、今何もできていないから、なっている。
この先も、この末端に居て何かできる自信もない。
映画の中で配達した荷物の爆発で「誰か」が亡くなったこと、爆弾がまだあるかもしれないことよりも、最優先されるはずのメディカル便の遅延を問題視し、その解決のためすでに発送した商品とは別で品を用意してでも、バイク便を手配してまでも届けようとする。
わかる、わかるんですよそこまでしようとする行動と、それが実際手配できてしまうエレナがどんなに有能かが。
あの頃、映画の詳細がわかるずっと前。
MIU404と世界線が繋がると言われ、せめてその背中だけでも映ってくれたら、と思ったあの頃に比べたら十分過ぎるほど、大好きだった二人の出番も見せ場もあったし、この空白の4年を埋めるほどの描写があった。
ただしこの映画を見て、そんなことが霞むほどラストマイルという話に釘付けで、のめり込んだけど苦しい。
この先も傍観者になってしまうのか。
「末端はもう充分頑張ってるよね」という野木亜紀子さんの言葉に少し救われつつ、何かの改革がある際には飛び乗れる軽やかさを持っておきたいなと思っています。
*1:送料の適正価格化、荷受けの待機時間縮小、置き配、受け取りBOXの普及などが検討されています