椅子上生活

主に椅子の上にいます

視点が増えた日

今週のお題は「人生変わった瞬間」。


そんなのいっぱいあるけど、最初に就職した会社で面白い視点を得たなあと思ってるので書きます。


子供の頃から新しいことを考えるのが好きで、いわゆる新商品を作る仕事に就きたいと思い、開発希望で地方の食品会社に就職しました。


入ってみたら、食品の場合は真新しいイノベーション的なものよりも、多くの人に受け入れられやすい既存の組み合わせの新商品の方が重宝されるということで、最初はなかなか苦労しました。
わたしが出した新商品アイディアシートは「おもしろいね」とは言われるもののほぼ採用はされず。今なら分かる。その新しい商品をその会社が出す必然性やストーリーが必要だということを…。企画書の段階で「こんなのあったらいいな」という、まだまだ消費者目線だったのでした。


それで、上の会議でこの新商品を出すぞーと決まった商品の商品化までを担当していたんですが、一つのアイディアから多くの人の手に届くまでに、どんなに多くの人の手がかかり、テストを重ねているのか、を身をもって体験し、ただの消費者だったわたしの思考は生産者側へシフトしました。


だいたい最初のコンセプトからざっくり手作りしてみた試作品が一番美味しくて、そこからどの原料を使うのが最適か試した後、生産ラインに乗せるためのサイズの調整やコストの問題での材料の選定(供給量が十分あるかも大切)、アレルギー関連での制約や生産安定化のための形状、包装形態、などなどを決めて試食会を重ねて、まぁまぁこれで商品化できるかな、というラインに着地して、パッケージ作って営業さんを通して発売前サンプルを小売店に売り込んで棚を獲得していく。


これで1商品、発売まで4〜6ヶ月くらいかかっていました。
そしてリニューアルを含めて、1シーズンで開発社員一人3〜5商品くらいを担当。


仕事では毎日試作を繰り返していました。食べるのが好きなわたしは天国でした。
ライン生産テストでは食べきれない量が出来上がるので、破棄するのはちょっと悲しかったです。
開発室長は職業病か痛風でした。試食しては吐き出していました。かわいそう。


お土産品などずっと変わらない商品や、ド定番で売れている商品があるならリニューアルって必要ないんじゃない?と思うかもしれませんが、生産者側視点で見るとリニューアルは必ず必要でした。

どんなに売れている定番商品があっても、その商品の美味しさなのか、パッケージなのかコスト削減なのか、はたまた原料産地の切り替えなどが発生した際に同じ品質を保つためにも、リニューアルを重ねていかないと作り続け・売り続けることはできませんでした。
また、定番からのバリエーションを作ることで棚の面を広げ、消費者の目に止まりやすくし、バリエーションの方が受けたらそれは良し、定番の方がやっぱりいいねとなれば定番を買う理由が生まれるため、それも良し。
棚を他社に取られないため、これが最高と思っても開発をし続けなければならない生産側の苦労も知りました。


そして、こうしてがんばって商品化した新商品たちの多くが定番化せず、ワンシーズンで散っていく姿を見ては、先輩社員の「安くて美味しいものが必ずしも売れるわけではない」という言葉を実感し、ずっと心に残っていました。


売り方が悪かったのか、売りたい層へ届いていなかったのか、価格が適切でなかったのか…原因は色々あります。


わたしが開発職として働いたのはそんなに長くはなかったけれど、そんな感じで、新しい商品が世に出た時の社内調整の苦労や、商品化できるレベル(多くの人が無しではないと思う品質)まで仕上げた苦労に思いを馳せたり、逆に尖ったまま商品化できた経緯(よく通したなぁとか、これ単体で売り上げを狙っているわけでは無さそうとか)を想像したりできるようになりました。


それは食品だけではなくあらゆる商品やクリエイティブにも派生し、この広告で伝えたい層は、伝えたいことは、とか、ここの作り込みがもう少し甘いのではないか、いや、あえて隙を作り出しているのでは、などなど、裏舞台への妄想をするようになりました。


今では面白い商品や企画を見る度に、舞台裏を妄想してはほくそ笑んでいます。
それらは皆、共通して「お客様に喜んでもらいたいなあ」という思いがあるのだと思っています。
なので財布が許す限り、チャレンジ商品はなるべく買ってみることにしています。


開発職をしていたのは人生の中では短い数年でしたが、面白い経験をさせてもらえたなあと思っています。


今週のお題「人生変わった瞬間」


▼ペヤングの開発どうなってんだろうと思ってる。

▼ガリガリ君、すごい発想を商品化できるのは、強力な定番商品があってこそ。


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